南ア北部 嫦娥岳 (2046.8m) 2010年10月16日
所要時間
5:53 戸台川駐車場−−6:07 第1堰堤−−6:33 第2堰堤(取水堰)−−6:38
第3堰堤−−6:55 第4堰堤−−7:15
角兵衛沢出合−−7:40 熊穴沢出合 7:57−−8:09 尾根に取り付く−−8:35 1550m付近で戻る−−8:50 熊穴沢から再び登る−−9:18 岩屋−−9:19 露岩を大きく右に巻く−−9:36 1700mで尾根に戻る(休憩) 9:47−−9:54 1730m肩−−10:34 第1幕岩(1930m)−−10:44 第2幕岩(休憩) 10:52−−11:04 第3幕岩−−11:21 嫦娥岳 11:54−−12:07 第3幕岩−−12:17 第2幕岩−−12:55 1730m肩でルートミス−−13:25 1730m肩で正しいルートに乗る−−13:44 岩屋−−13:57 熊穴沢−−14:07 熊穴沢出合 14:21−−14:55 第4堰堤−−15:08 第3堰堤−−15:13 第2堰堤(取水堰)−−15:38 第1堰堤−−15:51 戸台川駐車場
概要
念願の嫦娥岳に南西尾根から登る。あらかじめ書いておくが、DJFの記録が公開されていなければたぶん登頂できなかっただろう。挑戦を考えている人はDJFの記録を読んで予習しておくべき。
熊穴沢のから尾根に乗るが1500m直下で猛烈な傾斜となり黒檜山を思い起こさせる。下りは要注意。1550m付近は尾根が細くなり藪漕ぎ。標高1620mで尾根上に大きな露岩が現れDJFは登ったようだが私は右に大きく巻いて谷を登った。こちらは危険個所無く標高1700mまで上がって尾根に戻った。1730m肩の先の平坦区間は藪漕ぎ。1870m〜1930mはシラビソ低木の藪漕ぎ。
1930mからいよいよ幕岩地帯開始。最初の幕岩はあまり高くなく南川さんが木登りしたのはここだろう。私はDJF情報どおりに岩登りせず基部を右に斜上。断崖化して前進できなくなったところで急な小尾根をよじ登り、別の幕岩基部に出たところで右に延々と巻く。小尾根が現れたところで上を目指すと再び幕岩に出くわして基部を延々と右に巻く。これも小尾根が出たところで上に登り、今度は幕岩に出くわすことはなく、露岩はあったが特に危険は無く山頂に到着。DJFのリボンは健在。
登りに付けた目印のおかげで核心部のルートミスは無かったが、1730m肩の下りで正しい尾根に入るのに四苦八苦。ここは高密度に目印を付ける必要あり。
戸台川河原から見た嫦娥岳。南斜面は幕状の絶壁が続く |
戸台川の河原歩きを含めたルートマップ(クリックで拡大) |
主要部ルートマップ(クリックで拡大) |
嫦娥岳と聞いて場所が分かる人がどれほどいるだろうか。南アルプス北部、甲斐駒から鋸岳をつなぐ県境稜線の南側(長野側)にあり、同稜線北側の坊主山と同じように切れ落ちた枝尾根の末端にある。マイナー度も坊主山並みだろう。ネットで調べたがこの山名の山は1か所だけのようで、それに登った記録はDJF氏のものだけだった。KUMO氏も登っているがHPやブログはやっていないので登山記録は公開されていない。他に登ったのは山頂渉猟の南川さんと柏の小川さんくらいしかいないであろう。おそらく、国内の地形図に名前が記載された2000m峰の中でも登頂人数の少なさではトップクラスだろう。目立たない、主要な尾根にあるわけではないというのが大きな理由だが、たとえ挑戦したとしても簡単には登れない山というのも大きな理由だ。昨年くらいまでは撤退した記録(たぶん初級の岩屋さん)が1件発見できたが、とんでもない傾斜で諦めたそうだ。DJFや南川さんは下りでルートをミスって苦労しており、かなり地形が複雑なのは間違いない。一番詳しい記録であるDJFのサイトを見ると危険個所もかなりあるらしい。DJFは岩のフル装備を担いで入山している。
南川さんの記録を見ると簡単に登れそうに思えたのだが、DJFの記録を読む限んでからは私の実力で登れるかどうか大いに不安を覚えるようになった。偶然、仙丈ケ岳でDJFと会ったときに少し話を聞いたが、この界隈の岩が出てくる山で難易度の高い順に並べると坊主山→嫦娥岳→離山と言っていた。坊主山は私は南川(改)ルートを使ったため危険個所の通過は無かったのでDJFの見立てに合わなかったが、嫦娥岳は他に登れそうなルートが無いから「裏道」は使えない。
これ以来、嫦娥岳挑戦は後回しにしてきたが、残った2000m峰の中ではどう考えても簡単な部類になってしまった。そして道が無い、藪がある、岩があることを考えると雪が無くて涼しい時期、秋が最適で、今はその秋だ。今週末は天気も上々、戸台川の水量も減っているだろう。ダメ元で挑戦してみるのもいいだろう。私はクライミングの装備は持っていないが「お助けロープ」はある。行き詰ってロープ無しでは下れなくなった場合を考えて40m×1本、15m×2本の3本を持っていくことにした。また今回は大量の目印が必要となるため赤いガムテープを1巻用意した。赤テープや紙テープでは1巻の量が少ないのですぐに無くなりそうだがガムテープなら豪勢に使っても大丈夫だろう。ネットで2.5万図を拡大して持っていくことも忘れない。いつの間にか若干システムが変わって縮小だけではなく拡大が可能となっており、正式地形図では核心部が山名に隠れて読めないがこれならOKだ。しかし実際には幕岩の表記は無く、あまり使えないかもしれないが・・・。
戸台川駐車場(翌朝撮影) | 車止めの鎖。でもオフロード車専用迂回路あり |
金曜夜に戸台川駐車場に到着すると先客のレンタカー1台が止まっているだけだった。飛行機や新幹線で来るような遠方から鋸岳を狙いに来たのだろう。明日はもう少し増えるだろうか。ま、増えても嫦娥岳狙いは私一人だろうが。天気は快晴ではないが薄曇り程度であちこちに星が見えていた。駐車場入口には「東駒ヶ岳」の標識が。さすが伊那だな。
最初の堰堤(砂防ダム) | 最初の堰堤を越えたところで林道は消失 |
広い河原歩きになる。オフロード車の轍あり | オフロード車でもここまでしか入れない |
発電用取水堰付近の右岸は林道が残っている | 発電用取水堰(2番目の堰堤) |
3番目の堰堤(砂防ダム) | 3番目の堰堤右岸を越える |
翌朝、飯を食って明るくなってから出発。ところが歩きだして5分で拡大地形図とDJFの記録を車に忘れてきたことが発覚、出だしから躓く。DJFの記録は概要は頭に入っているので無くても大丈夫かもしれないが、いつ何時必要になるかもしれない。ここは10分のロスは無視して取りに戻った。なお、ゲート(施錠された鎖)は健在だったが広い河原にはう回路ができており、石ゴロゴロなので普通車では通過は無理だが車高が高いオフロード車なら最初の堰堤を越えて数100mまでは進入可能な状況だった。ただし、そこで本流が横切っており、元の道は大きく荒れてオフ車でも無理な状況だった。ここは場所を選んで渡渉した。なお、最初の堰堤より上流は道は跡形もなくなっており小さな石に覆われた広大な河原と化していた。部分的に右岸の林道跡が残った区間もあるが大半は洗い流されていた。発電用取水堰のメンテに人間が入る必要があると思うが、もう車で現場まで入るのは不可能だ。発電用堰堤を乗り越える部分はしっかりと林道が残っていたが、その上流の砂防ダムへは一部道が消失していた。そして林道終点。
3番目の堰堤を越えて河原に出る箇所 | これまた一面の砂利平原 |
嫦娥岳の姿 | たまに左岸に昔の道が残る |
角兵衛沢出合の標識 | 角兵衛沢出合に張られたテント。帰りもまだあった |
角兵衛沢出合から見た鋸岳の稜線 |
砂防ダムを越えると再び一面の河原を歩く。ここから上流側は左岸に林道があったがこれも消失したことは前回の坊主山の帰りに分かっていることで、適当に上流を目指す。そのうちに左岸側に樹林が現れるとピンクリボンが現れて今の道を示していた。あとは左岸側を歩き続け、新しい標識が立つ角兵衛沢分岐を通過、対岸には青いテントがあったがレンタカーの主だろうか。もう嫦娥岳の姿は近く、徐々に緊張感が高まる。ここから見ても西から上がる尾根上部はえらい急傾斜だ。
熊穴沢向けてなお上流を目指す | 中央のガレが熊穴沢。水は無い |
ここを渡渉。水量少なく場所を選べば楽勝 | 熊穴沢のガレを登る |
登山道を外れて熊穴沢を辿る | やがて水が流れるようになる |
さらに上流目指して河原を歩くと水が無いガレた熊穴沢が登場、この付近は前回と風景に変わりがなかった。前回はそれなりに渡渉個所選択に苦労した記憶があるが、今度はそれほど苦労することなく飛び石を選んで渡ることができた。少し水量が少ないようだ。ここで水を汲んで少し休憩。ここからは樹林に入るので麦わら帽子はデポしようとしたが、適当な隠し場所が無くてザックの後ろにくくりつけた。ちなみに今回の藪漕ぎで麦わら帽子はボロボロになってしまった。
ここから尾根に乗る | 最初は広くなだらかな尾根 |
徐々に岩が目立ち始める | 尾根ではなくなり、周囲は幕状岩に囲まれる |
登山道を巡って少し登り、右手の小さな沢から水音が聞こえてきたところで道を外れて沢を横断、獣道を伝わって尾根に乗った。最初はなだらかで広い尾根で危険地帯の気配は微塵も感じられない。下部は単純な形状ではなく2重山稜となっているが、とりあえず地形が把握しやすい西側(熊穴沢側)を登っていく。このまま素直に突き上げるのかと思ったらいつのまにか尾根が消えて谷地形に変化しているではないか。最初からルートミスとは。しかし地図を見る限りでは熊穴沢左岸を適当に登れば必ず南西尾根に行きつくはずで、このまま高い方向(東)を登ればいいはずだ。
幕岩下部の獣道を右にトラバース | ここもトラバース |
尾根が近い | 尾根上に出たが痩せて藪漕ぎ状態 |
しかしいきなり周囲は岩壁で簡単に尾根に這い上がれない。嫦娥岳付近は地形図で崖が無くても実際には樹林の下のあちこちに崖が隠れている。どうにか登るルートがないか周囲をよく観察すると、南に逆戻りするような形で岩が切れた樹林があり、どうにかここから取り付けそうだ。うまい具合に急斜面をトラバースするように獣道が付いており、それを巡って尾根直下まで接近、藪を漕いで尾根上に出た。標高は1600m弱だ。
白飛びで見えないが勘違いした尾根が見えていた | 下ってその尾根の方向に行ったら登山道に出てしまった |
DJFの記録を見るとしばらくはおとなしいシラビソ樹林の尾根が続くように読み取れるが、ここは全く状況が違った。尾根上は灌木の藪でしかも痩せ尾根。DJFの記録と異なるし、地形図の形状と一致しているようにも見えない。そして悪いことに前方に顕著な尾根が見えるではないか。実はこれは熊穴沢を挟んだ対岸の第2高点から落ちてくる尾根なのだが、かなり近い場所に見えるのであった。あちらが目的の尾根ではないかと疑心暗鬼に陥り、尾根を乗り換えることにした。登ってきたルートをそのまま下り、熊穴沢に下る前に右にトラバースしてできるだけ標高を失わないようにする。小尾根に出ると予想外の事態が。明瞭なピンクリボンがぶら下がっているではないか。これは嫦娥岳を目指した人が付けたのだろうと安心したのだが、よく見ると上方にはこの目印が延々と続き、しかも明瞭な踏跡があるではないか。そう、これは熊穴沢から中川乗越へと上がる登山道だったのだ。この時点ではまだ見えていた顕著な尾根が第2高点から落ちてくる尾根だとは分からなかったが、少なくともさっきまでいた尾根が正しい尾根に続いていることは確実なので(まだ主尾根に乗る前だった可能性もある)、再び登り返すことに。こんな初期段階でミスるのも珍しい。
再びスタート | 今度は右手(東)の高まりから登る |
最初はいい感じ | 1500mに近づくと猛烈な傾斜 |
とても直線的に登れる傾斜ではない | たまらず左に逃げる |
尾根に乗るが藪に覆われる | 最初に登ってきた場所 |
今度は正確に尾根末端から登ろうと、熊穴沢を越えて最初に取り付いた場所から再びスタート。周囲の地形を見ながら主尾根を探ると右側の急激に立ちあがる尾根が一番高く、これを登ることに。獣道があるが巻くようなルートになっているのでまっすぐに上がっていく。まだここは藪は無くシラビソ樹林でどこでも登れる。ところが標高1500m付近から薄い灌木の生えるえらい急斜面になった。これは黒檜山の尾根取付きを彷彿とさせる光景で、岩は無いが足を滑らせれば転落しような斜面でピッケルが欲しいくらいだ。行動は慎重にならざるを得ず、とても直線的に登れる状況ではなく左寄りにジグザグに進んでいく。どうにか傾斜が緩むと同時に尾根上は灌木がはびこるようになり、先ほどこの尾根に登った場所にすぐに出た。ということはここが主尾根なのか。また不安感が頭をもたげるが、ここは進んでみるしかない。地形図をいくら見ても熊穴沢から東に適当に登れば間違いなく目的の尾根に乗るのだから。
藪が薄くなると露岩が現れる | DJFも見かけた岩屋。真上を乗り越える |
そのまま登り続けると尾根上にも露岩が現れ出す。痩せた尾根で両側は切れ落ちているので岩があっても何の不思議は無いが、この先、通過に危険がある岩が出てくると撤退になってしまう。びくびくしながら露岩を登っていくが、今のところ乗り越えらられないような難所はなかった。標高1600m付近でDJFの写真でもあった「熊穴の岩屋」が登場、本当にこれの前上によじ登って越えた。
岩屋のすぐ先に大きな露岩あり | 乗り越えずに右の谷に下った |
岩屋のすぐ先、標高1620m地点で大きな露岩が尾根を塞いでいた。左手のバンドを伝えないことはなさそうだがもし落ちれば軽い怪我では済まず、巻くことができないか左右を確認する。左は切れ落ちていそうな気配で(奥まで確認していないので、もしかしたら巻けたかもしれない)諦め、右側を見るとかなり標高が落ちるが岩が無い地面がつながっていた。ここは大きく巻くか。急斜面を下っていくと地面のように思えた場所は露岩の面上に土が積もったもので、最後は1mくらいの段差があった。帰りにこれを登れるのか少し不安はあったが、どうにかなるだろうとそのまま下った(帰りの登りも特に問題なく通過できた)。なお、DJFの記録にはこの岩の記述はなく、彼にとっては障害となるような岩ではなかったのだろう。たぶん乗り越えたのだと思う。
谷に到着。あとは上を目指す | 両側は岩壁だが谷は安全地帯 |
まもなく尾根に出る | 標高1700mで尾根に戻った |
岩の基部を巻き終わって広い谷に出ると、上部までいい感じの傾斜で樹林と石が転がった斜面が続いていた。谷といっても水が流れるような場所ではなく斜面のような場所だった。地形図には出ていないが右手の尾根は垂直の岩壁が連続して登ることはできないし、今下ってきた尾根もやはり崖が続いていた。これが無くなるまで谷を登り続けよう。谷なので転落の心配は無く安心して歩け、足元がしっかりした場所を選び倒木を避けて高度を上げていく。そして安全な斜面が最後まで続いて標高約1700mで尾根に復帰した。ここは僅かな露岩しかなく、危険地帯は抜けたようだ。
上を目指す。この辺は写真ほど藪っぽくはない | まだ登る |
1730m肩直下。尾根がはっきりしない | 1730m肩。ルート中唯一見かけた目印 |
少し灌木のうるさい尾根を登ると、僅かな距離であるが今度はもっと籔っぽい急斜面になった。登り切ると明瞭な尾根に出て、そこには今回の山行で唯一見た黄色いテープがあった。登りだとここは何の変哲もない個所なのだが下りでは大問題になる。下山時にこの黄色いテープに助けられることになる。登りでは気付かなかったがこのテープの巻きつけられた木の隣の木に布KUMOが付けられていた。
分かりにくいが根から倒れたシラビソあり | 平坦区間は石楠花の混じる藪 |
この先で傾斜が緩んで平坦地帯が始まる。地形図の1730mの一帯だ。入口は根から倒れた大きなシラビソ倒木で、剥がれた根の横を通るとその先が藪で、矮小な灌木と石楠花が待っていた。石楠花といってもこの標高なので奥秩父のような根元から盛大に枝分かれしたハードルではなく、通常の1本の灌木と変わりがない。
藪が終われば歩きやすいシラビソ樹林 | でもまた石楠花 |
またシラビソ樹林 | 1820m付近。ここから傾斜が出てくる |
見た目ほど藪は酷くない | 僅かに開けた場所から見た中川乗越 |
乱雑なシラビソ樹林を登る。尾根北側に獣道あり | 獣道で尾根を外れすぎないよう注意 |
それを抜けると再び背の高いシラビソ樹林となった。でもその下には低いシラビソやシャクナゲが混じるようになり、全く邪魔物がないわけではない。まあ、大した障害ではないが。歩きやすい植生と藪っぽい植生が交互する。標高1820mを越えて傾斜がきつくなると、それまでの明るいシラビソ樹林から矮小なシラビソが増えて密度も増し、藪漕ぎというほどでなないが薄暗い中の登りとなる。ここに突入すると今まで見られなかった獣道が出現し、尾根直上よりも北側を登っていく。尾根南側は露岩があったり切れ落ちているようだが北側はこのまま薄暗い樹林が続いた。あまり尾根から離れるような場所は適当に上を目指し、尾根から外れすぎないように注意する。ここで頭からだいぶシラビソの枯葉を浴びた。
最初の幕岩末端。藪の裏側に岩がある | まだここなら登れそうな(上の様子は不明) |
幕岩が完全に立ち上がっている。基部を右に巻く | 基部の様子。右に行く分には安全 |
まだ巻いている | あの明かるい所まで巻いた |
標高1900mで面積は狭いが今までのシラビソの藪が開けて明るい空き地が出現、一息つける。そして僅かに登ったところで尾根上に長い幕状の岩が出てきた。これがDJFの記録に出てきた最初の壁だろうか。高さはそれほどではないが上部の様子が分からず、行けそうな個所から無理に登ったとしてもその後行き詰まる可能性が高く、ここは素直に岩の基部を右斜めに登っていく。ここは藪に突っ込むこともあるが概ね歩きやすい個所が続く。既に尾根を離れてトラバースしているので、上に行ける個所があれば登りたいところだがしばし絶壁が続いた。
巻きルート終点。この先は切り立って進めない | 急な微小尾根に乗り上を目指す |
そして今まで安全に巻けた地形がスッパリと切れてそれ以上巻けない場所に来た。そこは今までと違って岩壁が終わって傾斜はきついが微小尾根となっており、どうにか上に登れそうだ、というかここを登れなければ戻って別ルートを探さねばならない。DJFの記述からすればここを登ったとしか考えられず、突っ込んでみることにする。傾斜はきついが純粋な岩場ではなく露岩混じりの樹林が続いており、手掛かり足がかりは問題なしだ。出だしは露岩の登りなのでルートを選んでよじ登り、あとは安全に登れるルートを選んで高度を上げていく。実際に歩いてみると下から見上げるよりは安全だった。
巨大幕岩基部(2箇所目の幕岩)に出る。この先が絶壁のテラス | 2箇所目の幕岩西端。DJFはここを下ってきた模様 |
やがて安全地帯が終了し、再び幕状の岩の基部に出る。幕岩はここから東側に延びており、これの高さはゆうに20mはあって垂直の壁なのでこれを登るのは不可能だ。逆に西側は幕状岩の終点で、かなりの傾斜のバンドが上がっている。セルフビレーを取れれば挑戦できなくはないが、今の私の技量、装備ではこれを登っている最中に落ちたら軽傷では済まない。ここは無理をするべきではなかろう。DJFの記述では壁が出たらとにかく東に巻くとのことなのでここも巻けるか行ってみることにした。ここから見るととても基部に歩けるようなテラスがあるとは思えなかった。ここから先に進めなければ撤退だな。GPSの表示は残り100mだが、山頂はこの絶壁の上のはずだ。
2箇所目の幕岩も巻ける間はずっと右に巻く | 小尾根を越えてもまだ幕岩巻き道は続く |
意を決して幕岩基部を緩やかに下りつつ東に進むと意外なことに人間が歩くのに充分な幅のテラスが延々と続いているではないか。なぜこんなところにテラスがあるのか不思議だが、空中回廊と名付けたくなるような断崖の中間にあるのだ。もちろん、足を踏み外せば100m以上墜落であの世行きは確実だ。途中、1か所小ぶりの倒木があり、これは谷側の方が通過しやすいのだがミスれば死に直結するため面倒だが壁側を慎重に乗り越えた。尾根を乗り越えて(といっても垂直に近い岩場で登るのは諦めた)角度をやや北向きに変えて緩やかに下っていくが歩きやすいテラスは延々と続いた。
ここで巻き道終了。小尾根現れる | 小尾根を登る。実際は写真より右側から取り付いた |
かなり急な登りが続き緊張する | まだ登れるうちは上を目指す |
、幕岩の終点とともにテラスも終わって上方に向かう微小尾根が再び現れた。これまたさっきの微小尾根と同様に急な登りだが、露岩の様子や樹林の様子も同程度で、最初は露岩に、その後は木に掴まって3点確保して万が一の転落を防止しながら登っていく。さっきの幕岩がDJFの記録に出てきたものなら、このまま山頂まで登っていけるはずだ。
3度目の幕岩登場。またもや基部に出た | 上を見ると写真では登れそうな気もするが実際は確保無しでは 突っ込みたくない角度。奥明神沢のコルの登りより格段に怖い。 落ちれば軽傷では済まない |
安全ルートの幕岩基部右巻きを再び敢行 | 下っているのでテラスは写真より下にある |
順調に登っていくが、予想外に再び幕岩西端に登りついた。端なので西側は幕状岩ではないが、これもビレイ無しフリーで登るには危険すぎる急な露岩混じりの尾根であり、さっきと同じく幕岩基部を右に巻けないか進んでみると、これまたさっきと全く同様に基部には歩きやすい地形が続いており、ここは巻け!と言っているような感じを受ける。素直に巻きルートを進むと緩やかに下っていくが、ここも安全に歩ける。さっきとは違って足元は絶壁ではない。
小尾根が現れ上に方向転換 | この岩は右から簡単に抜けられる |
岩の右の斜面 | 露岩と傾斜はあるがもう安全地帯 |
これまたさっきと全く同じパターンで、幕岩が切れると微小尾根が上がっている。今度は深いシラビソ樹林が広がっており、見た目の安全度は格段に高い。少し登ると露岩が現れるが危険度は無く、露岩を乗り越えてシラビソ樹林を登っていく。ここは尾根形状を成しておらず急斜面で、登るのはいいが下りで幕岩終点にピタリと出るのは絶望的なので頻繁に目印を残す。方位磁石を見ると幕岩のトラバースで山頂真南を通り過ぎて東側に出ており、山頂の方向は北西を指していた。
稜線が近づくと傾斜も緩む | 稜線に出た。山頂より北側だった |
嫦娥岳山頂(三角点) | 布KUMO。一番新しい(DJFの数週間後に設置) |
柏の小川さんの赤布。2004年8月設置で既に文字消失 | DJFのリボン。「嫦」の文字が千切れている |
嫦娥岳山頂でのGPS表示。残距離は12.9m、標高誤差6m | 嫦娥岳三角点 |
深いシラビソ樹林を登り続けると傾斜が緩み、とうとう主稜線に出た。山頂の三角点ははたぶん肩の先端にあるだろうと予想し、標高が高い右(北)ではなく僅かに標高が落ちる左(南)に向かう。倒木が多いが危険度が無いのでこれまでよりはずっとましだ。そして樹林の中にピンクリボンが見え、近づいてみると三角点が鎮座していた。とうとう嫦娥岳山頂に到着したのだ! 人工物は三角点の他に3つだけ。長く垂れたピンクリボンは言わずと知れたDJF氏のもの。3年の風雪のためか先端が千切れて「嫦」の字が無くなっていた。文字が消えた赤布は6年前に小川さんがつけた物のはずだ。そしてDJF氏が登った時には無かった布KUMO。たしかDJF氏が登ってから1カ月たたずにKUMO氏も登ったようだ。この3氏は間違いなく国内屈指の藪山家(有能なクライマーでもある)であり、他に標識や目印が一切ないこの山は、数ある国内の藪山でも「聖地」と言っていいだろう。たぶんこの後も山頂に目印が増えることは無いだろう。この標高なので周囲は深いシラビソ樹林で展望は得られないが、樹林の隙間から眼下に見る戸台川はあり得ない角度の足元に見えていた。よくもまあ、こんな急な所に登ってきたもんだと我ながら感心し、しばし感慨に浸る。そしてDJFよろしく焼きそばパンを頬張った。
下山であるが、核心部は10m毎くらいの頻度で目印を付けたのでルートを外すことなく安全に抜けることができた。ただ、登りで付けた目印は要所の数か所(幕岩の起点、終点)を残して全て取り除いたため、その手間、時間もそれなりにかかってしまった。
登りは気付かなかったが北岳が見えていた | えらい急角度で眼下に戸台川が見える |
既に1730m肩を過ぎて1本東の尾根に入っている | 1730m肩。この黄色いテープが無ければもっと時間をロスった |
登りで最初に見かけた幕岩を通過すればとりあえず危険地帯は終了。その後も尾根を追いつつ目印があるか確認しながら進んでいった。そして1740m平坦地の藪を突き抜けて根っこごと剥がれた大きな倒木を通過、ここは登りで目撃しているので正しいルートであるのは分かる。しかしそこから先で目印がぱったりと消えた。間違いなく明瞭な尾根に乗っているのだが、これほど長区間目印を付けていないわけはないので間違いだと確信して倒木まで戻り、周囲を良く見るが、尾根は今逆戻りした場所しか見えない。ここでまじめに地図を見ればよかったのだが、登りは地図を見る必要はないし下りは今まで目印だけ追えばよかったので地図のことはすっかり忘れていた。
私が間違えたのはDJFも間違えた分岐で1730m肩だった。地形図では顕著な尾根が2分するはずだが、登りで使った尾根は出だしがはっきりせず急激に高度を落としてから尾根形状になっていた。しかも一帯は樹林で展望が効かないので探すのに苦労したわけだ。登りで唯一見かけた黄色テープを見てやっと事態が飲み込めた。登りでは気付かなかったが布KUMOも縛られており、KUMO氏はちゃんとここがキモとなる場所と最初から読んでいたようだ。藪に突っ込んで尾根がはっきりするまでは本当に心配で周囲を何度かウロウロしてしまった。ここは一段と高密度に目印を付けておいた方が良かった。少し下って目印を見つけた時はうれしかった。
露岩を巻くため1700mで左の谷を下る | 露岩手前に登り返す |
この岩の下に岩屋がある | 熊穴沢再び |
あとは淡々と下るだけだが、登りと同じく1700mで尾根を外れて左の谷を下り、1600mで尾根に登り返した。「熊穴岩屋」を乗り越えた先で最初にこの尾根に乗ったものの尾根を間違えたと勘違いして戻ってしまった地点に到達、2回目にこの尾根に上がったときに使った主尾根ルートよりも安全に下れると判断して再び稜線西側直下の獣道を使って緩やかに高度を下げ、安全地帯に入ってからは適当に下っていく。そして熊穴沢の流れでうまい水を飲んだ。ガレた涸れ沢を下って戸台川を対岸に飛んでしばし休憩。
河原から見た甲斐駒 | 稀に残る左岸の林道跡 |
河原から見た甲斐駒〜双児山。端に嫦娥岳も見えている | |
すれ違った男性2人パーティー | 車は5台に増えていた |
角兵衛沢の出合の青いテントはまだ張ったままだったが、今日もここで幕営だろうか。発電用堰堤を下っていると2名の中高年男性(と言っても私も立派なオジサンだが)が上がってきた。角兵衛沢で幕営して鋸岳を目指すという。なおも下って駐車場に到着。車は出発時の2台から5台に増えていた。そのうち1台は車中泊のようで男性が外で準備中。話を聞くと明日は角兵衛沢まで行くつもりとのことだった。
少々休憩して車を走らせ、仙流荘で風呂に入ろうかと思ったらまだ駐車場は満杯状態で混雑していそうなので高遠市街まで戻って「さくらの湯」で汗を流して温まった。戸台川で着替えていなかったので脱衣所でTシャツを脱いだらシラビソの枯葉が・・・・。
下山後気付いたことだが、南川さんが登ったルートは最初の幕岩ではなかろうか。2番目、3番目に出てきた幕岩は高さ2,30mで木登りでも登るのは不可能だったが、最初の幕岩は場所によっては高さ数mだった。それに戸台川河原から見た山頂付近の地形は、南には私が巻いたと思われる幕岩の絶壁が見えたが、山頂真西はシラビソ樹林がつながっており安全に登れそうだった。次に登る人はこのルートに挑戦してみるのがいいだろう。DJFルートしか頭に無かったので、最初の幕岩に登れそうな個所があったか、適当な木があったかは不明。